きんの何食べはった?

夏の完璧ごはん

Natsu_no_kanpeki_syoku夏バテて、儂、よう知りませんねわ。暑いしゆうて食欲がのうなるゆうことがありません。むしろ暑いときにこそ美味しいもんとか、暑いときに旬がくるもんとかのことを考えるとむしろ食欲が増すくらいです。だいたい智恵子の東京に空がないくらい英国には夏がおへんよって。そんなわけで、さほど冷やこい食べもんを体が欲さんのもホンマやけど、そやからゆうてさすがに夏場はあんまりコッテリしたもんは受けつけません。これは暑さのせいゆうより歳のせいやろかね。

そんな儂が夏のあいだ中、毎週みたいに繰り返すメニューがあります。これは、もう完璧やと自分では思うてます。

まずは、茄子の煮浸し。茄子は半割り。亀甲に飾り包丁を入れて胡麻油を敷いたフライパンに並べ、蓋をして極弱火で1時間くらいかけてじーわじーわ焼いていきます。この間にあと2品。胡瓜もみ白菜の炊いたん。胡瓜揉みは「ざく」。そらほんまは「きゅう」がよろしおっせ。そやけど鱧は英国ではどんならんもんのひとつですねん。

胡瓜はスライサー(こっちゃでは「マンダリン」て呼ばれてます)で薄切りにして塩をまぶして、ざるの中で自然に水けが抜けるのを待ちます。買ってきた鰻の蒲焼(真空パックのが日本食材店に売ってるんですわ)をあらかじめオーブンで炙りなおして冷ましといたんをザックザックと千切りにして、適度にしんなりした胡瓜を流水で洗い丁寧に塩抜きしたもんと合わせます。味付けは出汁醤油と米酢を半々に割ったもん。タッパに入れて冷蔵庫へポン。

次は〝たいたん〟。まず出汁醤油に花鰹を足して鍋で沸かし、お砂糖を大さじいっぱい加え、そこに千切りにしたお揚げさんを入れてひと煮立ちさせます。ここに巾2cmほどに切っておいた白菜を白い硬い部分から順に投入。蓋をして強火でぐらぐらくるまで炊きます。あとは火を弱めて白菜の量が半分ほどになるまでほっときます。ええ塩梅に炊けたら火を止めて生卵をポンポンと割りいれ、蓋をもどして、ハイ、できあがり。茄子の煮びたしが完成するころには温度卵っぽくなっています。ちなみに、これは室温で食べるのがええと思てます。

さあ、茄子が焼けました。ここでまたもや出汁醤油の出番です。強火に戻してフライパンをじょわーんといわせましょう。おしょゆうも大さじ三杯くらい足します。ピリカラにするときは、ここで種を抜いたタカノツメを潰し入れます。出汁が半分くらいまで煮詰まったら完成。火を止めてフライパンが冷めるまで放置プレイ。冷めたら、やっぱりタッパに移して冷蔵庫へ。―― と、ここまでを朝ごはんの後にやってまうんですわ。ここがポイントやと儂は思てます。ほしたら、あとは食べる前にごはんを炊いて、煮びたしに散らすネギか青紫蘇を刻むだけでしょ?

たいたんが汁っぽいさかい、とくにおつゆはいらんのやけど、どれも出汁醤油系の味なんで、目先を変えるためにこのメニューのときはお味噌汁をこしらえます。ほんまは茗荷がええんやけど、それは無理。第二候補は蓴菜! やけど、これも無理。なんで、湯葉かお豆腐に落ち着いてます。

そや、いっぺんこのラインナップにヴィシソワーズを組合わせたことがあったけど存外イケました。けっこう、あの冷たいジャガイモのスープはごはんに合いまっせ。おつけもんは胡瓜も茄子も白菜もかぶるさかい沢庵。濃ううに淹れた冷たい煎茶を用意して、はい、いただきまーす。

Natsu_no_kanpeki_syokukuzu ところで、この晩ごはんのデザートはスイカとかマッカ(京都人はプリンスメロンのことをそない呼びます。「まくわ(瓜)」からきたもんでしょう)が定番なんでしょうけど、そうは問屋が卸しまへん。どんな問屋や知りまへんけど。そやかて、ほとんどお精進ですやん。このメニューて。と、そこでこさえますもんは「くずまんじゅう」ですねわ。こっちには白隠元の水煮缶が安うでようさん売ってまして、これを甘煮にして裏漉した餡を和三盆で甘くした葛でくるんだもんです。形は悪おすけど、けっこういけます。

そら、「松屋常盤」さんとまでは申しまへんけどな(笑)。

ジャム一年分

Jam1 あんなあ、へえ。年にいっぺんジャムを作ります。なんでいっぺんだけかゆうたら、そんときに一年分仕込んでまうからです。同い年の友達が三人。中年男三人寄おったら、姦しいとは愉快だねーって感じでこさえます。ベーリーグゥードゥー。ベーリーグゥードゥー。

細かい作り方やなんかは前に雑誌『考える人』の連載で書いたんで、そっちを参照してください。バックナンバーはこちらから http://www.shinchosha.co.jp/kangaeruhito/mokuji/12.html 。もし雑誌が品切れで手に入らへなんだ場合は、単行本化キボンヌレターを新潮社にドシドシ送っておくれやす(笑)。kangaeru@shinchosha.co.jp (←ちょっと本気)

さて、その交霊ちゃうちゃう恒例ジャム作り、実は去年でけへんかったんです。一昨年の秋にうちでやって以来、どうしても三人が一緒に休めるタイミングと、ちょうどいい果物のタイミングがあわしませんでしてんわ。なんやかんやゆうて今年の頭まではもったんですけど、とうとう最後の一瓶が終わってしもうて、まあ、市販品にも美味しいのんはいっぱいあるさかいそれで凌いでたんでっけどやっぱり手作りがええわーってことで話し合って今年は三人が別々にジャムを煮ようやないかってことになりました。

そうなったらそうなったで、いつもとは違う愉しみかたをしょー思いまして、一種類をようさんやのうていろいろなフルーツを五、六瓶づつこさえたろやないかと計画しました。ちょっと実験的なこともしたろかなーみたいな野望もむらむら。で、できあがったんは八種類です。

「苺」 これは定番でんな。ないことには収まりまへん。そんで、フツーのジャムらしいジャムやないといけません。それは前回作ったときにグラッパで風味をつけたとき思いました。悪ぅはないんですけど本来の苺ジャムらしい幸せ感がのうなってしもたんで。と、いいつつ儂のんはえらいことRunnyなんです。ゆるゆる。十年はいたパンツの紐か? ちゅーくらい。もう、ちょい煮詰めたらええのんはわかってるんですが……。いや、ゆるいのんは好きなんですよ。塗りやすいし。バタにもよう馴染むし。

「ラズベリー」 これがないと相方が怒ります。えらいこと好物ですねわ。こいつも定番中の定番やよってに、なるべくシンプルーに心掛けました。儂らは週末の朝ご飯にショコラショーとクロワッサンをよばれることが多いんですけど、チョコレートには絶対に苺よりラズベリーのほうが合います。そやし、苺より作る量も増やしました。あ、そうそう。よしながふみさんの『きのう何食べた?』にアクも美味しゆうて書いてあったんで(彼女もどっかから拾てきた情報みたいやし孫引きでんな)試してみました。確かにロシアンティーにしたら結構なお味。エグ味とかはおまへん。そやけど、わざわざ試すほどのもんでもおへんでした(笑)。

「枇杷」 イギリスでは一般的やない果もんですが、近所のトルコ人街の八百屋に行くと、この季節にはようさん並んでます。英語で【Loquat ゆうんですて。日本のやつみたいに甘うはないけど、枇杷らしいクセは強いんでジャムには向いてまんな。ちゅうか、まさかジャム素材としてこんなにも向いてるとはビックリ。初めてこさえましたけど非常に美しいオレンジ色のジャムになりました。思いついて皮を千切りにして混入したんも正解。酸味と甘味のバランスや食感もよろしおす。そやけど食パン(トースト)には合わへんかなー。

「洋梨とフロンザック」 ほんまはね、赤ワインはコート・ド・ニュイが合う思たんですわ。そやけど、お客さんがきたときに出した飲み残しが三分の一本ほど余ってたんで、それで間に合わせました。「使い回し」ゆわんといておくれやっしゃ。吉兆さんと違いまんにゃから。肝心の味でっけど、やっぱり旬のもんやないとあきませんなーゆう味でした。クセなさすぎ。赤ワインと洋梨は出会いもんやし、ええアイデアやと思たんやけど。使い回しやのうて、もう少しワインを奢るべきやったかな。のちのちムースにでもしまひょ。

「ブラッドオレンジのマーマレード」 今年はブラッドオレンジの当たり年でしてん。ジューシーで甘い。ほんで安い! ふだんはメンドーくささかいマーマレードなんか拵えへんのですけど、こういう機会は逃したらあきまへん。下拵え中、思わずマクベス夫人の台詞なんぞを諳んじてしまう儂でした。ところがですわ。出来上がってみたら普通のマーマレードの色になってしもて大ショーック!いや、美味しいさかいええんですけどね。 味は、ずうっとただのオレンジより濃厚です。ただ、香りは劣ります。

「バナナとチョコレート」 イズリントンにある大好きなレストラン『Ottolenghi』の名物、バナナジャムを真似したろと思て挑戦。そやけど本家のあの味は常温保存でけへんやろと踏んで、最後にカカオ80%のチョコレートを大量に混入することで延命策を図りました。そらそらもーどんだけ美味しなるやろ! とか期待してたんやけど結果は「美味しい」ゆうより「面白い」味になってしまいました。バナナてあれやね、火ぃを通すと甘さが大人しゅうなって逆に酸味が立つんやね。次作るときは砂糖をもっと奢ったらんと。

Jam2 「ゴールデンプラム」 今回の最優秀賞。Boroughマーケットで、もう傷む寸前、五月みどりみたいに熟熟に熟したやつを買うてきて拵えたんやけど、めちゃめちゃ美味しいジャムになってくれはりました。トドのつまりはアレでっせ。お人形は顔が命、ジャムは材料の熟成が命ちゅうこってすわ。もっとも、もとはもっと山吹みたいな黄色やったんが、煮あがったらえらい濃いい色になってしもた。トーストによし。クロワッサンによし。ヨーグルトによし。これを白ワインかなんかで伸ばしてザッハートルテみたいなチョコレートケーキに使こたらめっちゃええんちゃうかなあ。

「シャンパン・ルバーブと生姜」 ズイキみたいな見た目の酸っぱい野菜、ルバーブ。食べごろに育つと直径3cm、長さも50cmくらいはあります。本来は緑に重ねて赤インク刷いたみたいなエゾクロシイ色なんやけど、儂が今回ジャムにしたんは、うつやかな朱鷺色をした「シャンパン・ルバーブ」ゆうやつ。ずっとスリムで、先っちょに黄緑の葉っぱがピロピロついてて可愛らしい。味も優しゅうて甘い。で、期待通りにええジャムにはなったんやけど……色が……。まるで江戸紫磯自慢みたいや。繊維質が多いさかい、ほんまにソックリ。ゆーても色を生かそう思たら煮る時間を短縮せなアカン。ちゅうことは日保ちせん。これは研究課題やな。

Jam4 まあ、まあ、まあ、そんなようなことでなんとか一年分を確保。ジャム三昧をタンノしております今日このごろでございますでございます。

ところで、なんや、ジャムは作りたてに限るみたいな考え方がありまっけど、儂は、そうは思わへんね。それは、コンフィチュールでっしゃろ。ジャムちゃいますわ。まして「甘さひかえめ」やとかシャレにもなりません。健康のためにとかダイエットとかいうんやったら、そんなもんハナから食べるのやめなはれ。誇り高き英国ジャムは、甘うてナンボでっせ。よう知らんけど。

儂の基本は、お砂糖と果もんの重さが同量。かーなり甘いし、なにより鍋のなかに砂糖を投入してゆく段階でちょっと引いてしまうくらいドッサリ感があります。そやけど、でないと一年保たへんもん。煮上がって、まだくつくつゆうてるジャムを、オーブンで100度にまで熱っした瓶に流し入れ、大慌てで蓋をきゅっと閉める。―― ジャム作りでいちばん緊張する瞬間です。この作業さえしっかりやれたら絶対にカビてきたりはしません(あ、そら、じゅうぶんに果もんの水分が飛んでへんかったら知らんよ)。時間が経つにつれて味が変化してゆく、その過程も愉しいもんです。ヒネもんも美味しおっせ。

アスパラガスの温度卵ソース

Asparagusアスパラガスは儂のいっとう好きな野菜のひとつです。そやけど、いっとう好きといいながら、そのわりに食卓に上る回数は少けないです。12から15本くらいの一束が2ポンド(450円くらい)を切るまでは八百屋さんの店先で「ダンナ、ワチキを買っておくんなさいよ」と微笑みかけられても無視。そのかわりチョンチョン格子の安淫売にまで身を落としたら、通いに通いづめ。もう、毎日のようにいただきます。グリーンアスパラほど味覚と旬と値段が一致した野菜はおまへんよって、これが賢い食べ方やと信じてますねわ。

あ、白アスパラガスは話が別でっせ。ケチらんと一本が1ポンドくらいする太い太いのんを気張ります。まあ、ゆうても年に二回がせいぜいやけどね。なにしろ、ようさん食べまっさかい。

そんなわけで月にいっぺんとかやったら毎度毎度おんなじビネグレットソースかタラゴンを効かせたホランデーズかなんかでええんやけど、これが二日と開けず一月半ほども続くとなると、やっぱし料理法にもいろいろ工夫が必要になってきます。そやないと、なんぼなんでも飽きてしまいます。半分ほどに衣をつけて天麩羅にしたり、油通しして干し貝柱を戻した中華出汁にトロみをつけてかけてみたり。もちろん、たまには湯がいて市販のマヨネーズをつけつけ食べるなんてこともします。擦り胡麻を三杯酢でのばして和えた〝よごし〟とかもエエですね。

このごろ気に入ってるのんが、載っけた写真の料理。こんなもん料理ゆうたら怒られそうに簡単なもんなんやけど、アスパラガスの持ち味を生かした一皿やと自己満足してます。料理名は、そやねえ、どないにゆうたらよろしおすやろ? 「洋風温度卵和え」とでも呼ばしてもろたらええやろか?

まず、お湯を沸かして、ここで温度(温泉)卵を拵えます。キッチンペーパーで二重にくるんで輪ゴムで十字に留め、お鍋の水がグラグラに沸いたら火ィとめて紙巻卵を投入。15分で出来上がりです。お湯は捨てんと卵はスプンで掬ってお皿に置いときます。お湯は沸かしなおしてアスパラガスをこれで茹でるんです。噛んでコリッとした歯応えが残るくらいで笊にあけ、余熱で水分を飛ばします。アスパラガスが乾くんを待つ間に、小さなフライパンでオリーブ油を暖めます。塩漬けベーコン「チポレッタ」を脂がすっかり抜け、カラッとなるまでじくじくと煮てゆきます。頃合いを見計らって温度卵を皿に盛ったアスパラガスのうえに割り落としてホークで潰し、ほんでから、そこにすかさずアツアツのチポレッタのオイル煮をじゅわーとかけまわして、はい、おしまい。チポレッタがなかったらベーコンでもかめへんのですけど、その場合は塩気が足りんぶん補ってやらんとあきません。

半熟卵に穴をあけてトロトロの黄味にアスパラガスを漬して食べるんが英国人は好きなんですけど、そっからヒントを得ています。ところでこれを拵えるときは儂にしたら珍しゅうお皿もオーブンであっためておきます。あんまり熱うても冷めてしもてても美味しないんですわ。なんにも難しゅうはないけど、温度だけは気ィつかいまんな。

この料理はごはんにもパスタにもパンにも合います。こないだはチキンライスを拵えました。儂のスタイルは生米から炒めるピラフ式です。具はテキトーに切った鶏の胸肉と玉葱の微塵のみ。トマトピュレ、パプリカ、塩コショで味付け。グリンピースの代わりに剥いた枝豆をどっさり混ぜてコンソメスープで炊き上げます。つけあわせは丸ごとレモン煮にしたマッシュルームと、それからポロ葱のフェットチーネ風。なんや大層なもんみたいに聞こえまっけど、細長うに切って茹でて冷しといたポロ葱をパセリ入りのビネグレットソースで和えただけのもんですわ。

さて、今年はあとなんべんくらいアスパラガスが食べられるやろか。こんどは、どないな料理にしよかいなあ。ほんまに飽きひん野菜やわ。

日本カレー

Carry1 カレーは翌日が美味しい。―― これは世界共通認識みたいでんな。英国人の相方も、おんなじようにいうてます。子どものころ、毎週決まって日曜の晩はカレーでした。『ハウス・バーモントカレーだよー』と『メタル印度カレー。インド人もビックリ』の混合がうちの定番。具は薄切り牛肉とジャガイモ、人参、玉葱。つけあわせは福神漬け。ほんま、なんちゅうことない庶民カレーですわ。もちろん嫌いやなかったけど、これを食べながらすでに頭は翌朝のことでいっぱい。そんなもん、次の日ィの夜にあっためなおして、なんて悠長なことしてられまっかいな。朝ご飯ですわ。それも、冷たいゴハンに、冷たいままのカレーをかけて丼でかっこむのが至福やったね。

もう、最近では作った当日のカレーを食べることはまずめったにありません。必ず前の晩にこさえて寝かせておきます。そんでもって、さすがにこの歳になると朝っぱらから丼カレーはキツおすよってに素直にその日の晩まで待ちます。もちろん味が落ち着いて成熟して美味しくなっているわけですけど、それにもまして、この蠱惑的な香りをいちんち中鼻先にまとわりつかせたまま思い設けてジレた気持ちが最高のスパイスとなっています。子ども時代も、いまも変わらずに美味しいもんて珍しい思うんですけど、日本の誇る即席固形ルーカレーはまさにそんな奇蹟のような食べもんやないでしょうか。

実は、この和カレーの固形ルーについては「どこそこのなになに」ゆうコダワリて儂にはないんですわ。さすがに甘口のんは避けますけど、そのときの安売りしてるもんを買います。『ジャワカレー』でも『こくまろ』でも、なんでもよろし。具ゥは、牛の角切り肉、人参、玉葱、セロリ、マッシュルーム。野菜なみんな微塵に切って、ようように鵞鳥脂で炒めて、そこに肉を投入。ひたひたになるまでワイン注いで、一煮立ちさせてアクを掬ったら鍋の八分目まで水を注ぎ、大さじ一杯のトマトピュレと小匙一杯の塩で味を調えて弱火にしてコトコト三時間くらいアクを除きつつ煮込みます。ほんで最後、火ィを止めてからカレールーを割りいれて余熱で溶かし、蓋を閉めたら「おやすみやす」と声かけて翌日までしばしの別れ。

ジャガイモは入れたり入れへんかったりですが、入れるときは別に茹でといてカレールーを混ぜる前に合わせませす。いっしょに煮込むとジャガイモのデンプン質がカレーの味を濁らせるような気がするんですわ。茄子とか豆さんとかほかの野菜を形のある状態で食べたいときも、この段階でんな。

そうそう。ここで生卵を割りいれることもあります。日本にいてたときは鶉卵の水煮をどっさり入れてましたけど、こっちでは高級品なんで普通の卵です。これがけっこう、ええ感じに固まりますねわ。ほんで食べるときに「いや、なんえコレ、美味しいやんか。瓢亭玉子やろか?」とかホザきます。

Curry_udon1 ところで、カレーって絶対にあまりますやん。ピッタリ、ちょうど食べきれる量のカレーをこさえられる人て尊敬するし、ノーベル賞もらわはっても驚かへんけど、なんとのうにお友達にはなれへん気ィがするなあ。まあ、それはともかく残りカレーですわ。これが充分にあと一食分くらいあったらタッパに入れて冷凍します。あんまし、おんなじもんを続けて食べんのが好きちゃうんですわ。そやけど、凍らせるほども量がないときはちゅうと、カレーうどんの出番です。いや朝やのうて(笑)お昼ご飯としていただきます。ほんまは、京都のお揚げさん入れたカレーでやると、もっと美味しいんやけどなあ。

ちなみに、儂のカレーうどんは、普通に茹でたうどんに、普通のうどん出汁を張って、ここに残りカレーをかけるスタイルです。あとは葱をぎょうさんオプションするだけ。カレーうどんて、ときどき無性に食べとうなるもんのひとつなんやけど、その〝無性〟が襲ってくる周期と、ちょうどええ塩梅の量のカレーが残るタイミングがあんじょうに出会うとモノごっつい満足感があります。なんやろね。これ。

ロブションさんのおばんざい

Robshon_obanzaiあんね、基本的に儂の料理てほんまに工夫がないゆうか、まえまえからあるような古くさーいもんが多いんですわ。日本のもんでも、ガイコクのもんでも、どっちゃにしてもおばあちゃんが食べたはるようなごはんばっかり。料理の本を読むんは好きやけど、そやからゆうて誰ぞのオリジナルレシピを拵えるゆうことは、まず、めったにありません。

そやけど、たまーに妖怪アンテナが立つみたいに「これや!」ゆう料理に出会う僥倖もないことはおへん。たとえば向田邦子はんの考えはったおかずやとか、斉須政雄シェフ(と、レオナード・バコーはん)が創造しはった味覚やとかは、ことあるごとに食卓にのぼります。あやかりたい、ゆう気持ちもあるんかしれまへんなあ。

この料理も、そんななかのひとつですわ。料理ゆうか、ソースやね。三ツ星シェフやったジョエル・ロブションはんから教わったもんです。いまは日本に四軒も『ロブション』があったりしますけど、儂がこの天才シェフの作らはったもんを食べさせてもろたんはパリです。『ジャマン』時代に2へん、のちの『ロブション』時代にもやっぱし2へんほどかな。八〇年代前半の話です。まだロブションさんも厨房に立ってはりました。

その日も店のなかは、この〝経験〟をあますことなく味わい尽くそうという客の熱気で息苦しいくらい。儂も気合でかんかんになって食べてました。そんなときにデジュネのムニュの一品として出された魚料理がこれ。もちろんモノのごっつうに洗練されてはいたんですが、なんやテンパってた気持ちが「すー」と抜けてゆくような家庭料理的な味覚でもありました。その理由は、素材が鱈ちゅう庶民的な魚やったからやと思たんですけど、これが違ごたんですわ。ソースのせいやった。

「醤油とバターとケチャップでっせ。そんだけしか使こてません」

「へー。ケチャップ作らはるなんて意外でんなあ」

「そんなもん作ってまへんわ。『ハインツ』買うてます」

あとで出てきはったロブションさんを掴まえて魚のソースについて訊んねたとこで返ってきた答がこれです。そらもーびっくりしましたで。そらそら、まさかて思いますわな。三ツ星シェフが『ハインツ』て、あんた。ところが、うちに帰ってなんべんか試作してみたら、かーなり近いもんがでけてしもたさかい、も一遍びっくりさせてもらいましたわ。ちょびっとのバターで醤油をじょーんといわせ、そこにケチャップを絞り火が通ったとこで冷たいバター入れてモンテするだけ。

ハインツ侮り難し。―― そうゆうたら、いまエゲレスで飛ぶ鳥落とす『ファットダック』のヘストン・ブルーメンタールはんもハインツのファンらしおすわ。なんや「魔力のようなもんがある」ゆうたはりました。

魚はいろいろ試したけど、やっぱ鱈がええね。あとはイサキとかグジでも美味しかった。お店ではシンプルにポワレしてあったけど、儂はもっとお惣菜感が出したいんで粉打ってムニエルですわ。ほんで、ほんまはソースと魚だけなんやけど、付け合せもたっぷり添えます。バターライス(ちゅうかピラフ)と人参のジュリエンヌのサラダが定番です。8区あたりの場末のビストロみたいで、よろしおすやろ(笑)。名づけて「ロブションさんのおばんざい」。簡単やけど、天才シェフの威を借りてお客さんにもお出しします。

ローストビーフしゃぶしゃぶ

Roastbeef_shabshab イギリスに住んでいて恋しく想う日本の食材に「薄切り肉」があります。とくに儂は京都人やさかいギューニクでんな。でも日本にいてると、こんどは固まりの肉をローストしたもんとかが無性に食べとうなったりするんで、つまりは〝ないもんねだり〟ちゅうことなんやろなー。

日本の食材を扱こうてる店なんかに行ったら薄うに切ったもんも売ってることは売ってますねわ。そやけど質がようないくせにアホほど高い。ボッタクリに追い銭するほど気前ようありませんから、もちろんそんなもんは買いません。むしろ銭形平次になりたいくらい。それもカドカドのある50pを投げたろかて気ィがします。

そんなわけで薄切り肉とは無縁の生活をしてるわけですが、もちろん量はよっぽどたくさん食べてます。たとえばローストビーフゆうたら、えっらいご馳走めいた印象がありますけど、こっちやとさほどでもありません。週末にはよういただきます。塩コショだけでよばれることもあれば、英国人らしゅうにグレービーで舌鼓を打つこともあります。ときには辛子醤油で魯山人したりもいたします。

ローストビーフをした翌日は、その余り肉で料理すんのが一般的です。塩コショで食べたときは、ロケット(ルッコラ)やアンディーヴ、クレソンなんかとサラダにします。グレービーのときは「お約束」ともいうべきシェファーズ・パイ。余ったローストビーフの付け合せ野菜も一緒に刻み、グレービーで煮て、マッシュポテトをその上に敷いてオーブンで焼いたもんですわ。デビット・バウイーの大好物やて知ったはった?

ほんでね、和風でいただいたときの翌日は、儂、これでしゃぶしゃぶしますねん。しゃぶしゃぶモドキちゅうか、しゃぶしゃぶ風ゆうか、いや、すんまへん、しゃぶしゃぶを食べた気がせんでもないなゆうような怪体なもんなんですけどね。

まずは昆布で出汁とって、それで白菜を茹でます。ほんで、それを適当に割いて皿に布きます。つぎはおトフを大きめの賽の目に切って、白菜を上げた後の出汁であっためます。ここにエノキやら椎茸やらが入るときもあります。それを上げたら、さいごにローストビーフを思い切り薄うに薄うに切って、ぐらぐらにしたその出汁にさっとそれを潜らせます。生肉よりはずっと切りやすいし、ローストビーフは中がピンク色の状態に焼き上げますやろ? そやからサッと湯通しするくらいやったら、おかげさんでまだけっこう柔かい状態なんですわ。これに、たーっぷりの大根おろしをレモン+出汁醤油で割ったもんをドレッシングみたいにして回しかけて出来上がり。仕上げに葱と七味をぱーらぱら。

残った出汁でこさえた玉子おじやとともに食べるわけですが、ホンマモンを望むべくもないこっちにいてると、しゃぶしゃぶの〝悦び〟ゆうか〝満足〟を与えてくれるんです。まあ、幻想を食べてるようなもんでっけどな。

Boeuf Bourguignon

13 こないだフランスのお友達がうちに遊びにきてくれはって一週間くらい泊まってはってんけど、その最終日の晩に「お礼」やゆうてご馳走を作ってくれはった。てゆうか、作ってくれはるのんは、もう、とおに決まってて、そやけど何にしょうかいなあゆうてえらい悩んではってんわ。儂はどーせやったら、ベッタベタにベタな仏蘭西家庭料理がええなあいうたら「ほな、ブッフブルギニオンにしょうかいなあ」いうことになった。

こいつが住んどんのはチョンビルゆう北西部の小さな街で、ほん先にルクセンブルグがある。そのへんの名物ゆうたらキッシュ・ロレーヌとかやねんけど、お母さんがブルゴーニュ地方の人やってんて。そやし、まあゆうたらこれはこの男の〝お袋の味〟みたいなもんかな。そないなふうに考えたら、もう、それだけでえらい期待が高うになってドキがムネムネしてまう。なかなか、そんな機会あらへんもんね。

まず、肉は肩ロースを選ばはった。ちょっと意外。もっと脂のおいとこを煮るんやと想像してたさかい。フランス語で「macreuse」、英語では「chuck」て呼ばれるこの部位は、ニカワ質がぎょうさん含まれてる。これが重要なんやていうことやった。そやけどなにが意外やったて、煮込みに使うワインにブルゴーニュ産のもんを普通は使わへんてゆうこと。もっとシブうて濃い濃いワインがええらしかった。結局スペインのシラーと天麩羅ニーニョでこさえたやつを選ばはったわ。

そうそう。投入する野菜が限りのうミニマムやったんにも、ちょっとビックリしたわ。そやかて、なあ、へえ、人参と玉葱だけなんえ。玉葱は煮溶かすように細こうに刻んで、人参はかなり大きゅうに切って面取り。あとはニンニクやとかブーケガルニだけ。肉のひとつひとつにクローブが差し込まれ、小麦粉と一緒にキャセロールんなかで炒めてブランデでフランベ。ほんでからワイン入れて一煮立ちさせたら、それで一晩寝かせる。あとは翌日、塩コショしてトロ火にかけること3時間。はい、できあがり。

14 それにしても、小玉葱とかシャンピニョン・ド・パリとか、彩りにブロコリとかさあ、入れとうなるんが人情やん? 煮溶かす野菜にしても、セロリーやらエシャロットやらさあ。そやけど、そういうのんを一切省いて肉と赤ワインの結びついた旨さにだけ焦点を絞ったこの味覚こそベタなフランスの味なんやなあーてしみじみ思たわ。クローブの風味がかなり強烈やったけど、これが主人公である二素材をしっかりと組み合わせる役目をしてるんは間違いない。バロムワンでゆうたらボップの役目やね。

つけあわせもシンプルやったえー。ヌイユ(いわゆるタリアテッレやね)やってんけどさあ、素ヌイユやねんもん。ちょっとくっつきぎみの麺を、ブッフブルギニョンの水分でほぐしながら食べる感じ。バタで和えたりとかしてへんさかいにね。そらくっつきまっさ。もー、ただただ茹でただけ。せめて茹でるときは塩混ぜよーさーて心配になったけど。アカン!ていいよるねん。

ちなみに、この茹で方をフランス語で「poché anglaise」ていいます。こいつなりの英国への敬意を示したかったんかな。馬鹿にされてる気ィもするけど。まあ、ええわ。

そやけど、15いやいや、まあまあ、ほんまに美味しかったわ。まあ、儂はこの男に惚れとるさかい、なに作りよっても「美味しい。美味しい」ゆうて食べたやろけどね。つまりは恋心(ラムール)こそがフランス料理をなによりも美味しゅうにするスパイスなんかもしれん。それは、どんな料理についてもいえることかもしれんけど、とくにフランスのんはそうなんちゃうかなあ。

あ、こいつも儂に愛情込めよったんかもしれんな。

小豆粥

1月15日(じゅーごんち)。小正月には『小豆粥』。冬至のおかぼさんやら、えべっさんの鯛やら、その日いに食べるもんが決まってると、あんま深こうに晩ご飯のメニューを考えんでええんでらくちん。理にも叶うてることもおいさかい、とうぜん体にもええ。それに、なんやホッとすんのは儂が京都人やからやろか? まあ、なんでもよろし。美味しかったら。

ほんまの小豆粥はお鏡さんを割って、それを入れるみたいやけど、外国にいてるとお鏡さんゆうわけにもいきまへん。そやけど、なんなとお餅は手配するさかいに形は整います。ありがたいことです。今年は『開化堂』さんの息子さんが、ええ塩梅の時期にロンドンに来てくれはったさかい、無理ゆうて京都のんをもってきてもらいました。

儂のこさえかたは簡単です。鍋の底がかくれるくらい小豆を敷いて、そこに八分目まで水を入れます。強火にして、ぐらぐらいうとこまできたら弱火にしてから落し蓋。これで一時間くらいゆらゆら火を通します。指先で潰れるくらいまで小豆が柔らこうになったら、小豆と同量のモチゴメを投入。お砂糖(今年は贅沢して和三盆を使わせてもらいました)を大さじ一杯。お塩を小匙に一杯。また落し蓋を戻して、おんなじようにゆらゆら二時間。で、できあがり。ときどきの好みで、もうちょっと水を足して長うに炊いてとろとろにすることもあるし、そのまんま水気をトバしてもたっとさせることもあります。

お餅を入れんのは最後。盛り付ける前。お茶碗の底にお湯で柔らこうにした丸餅を沈めます。ほんで、そこに小豆粥をとろーとかけるんです。

つけあわせは、塩昆布て相場が決まってます。が、まあ、そんだけゆうわけにもいきまへんやろ。京都にいてるときは水菜がちょうど季節なんで一緒に食べてました。さっと茹でて、そらもう、湯通しに近いくらいささーっと茹でて、ざるにとって流水で冷してポン酢をかけたん。鰹(かっつお)もなんも降りません。それに、笹鰈(ささがれ)を焼いたんとかが定番やったかな。

こっちでは、まあ、しゃあないなあゆうことでアンディーヴを千切りにしてレモン醤油で和えました。苦みが美味しい。魚はちょうどええのんがなかったんで、鶏のささみを塩焼きにしました。広島の藻塩をまぶしてStaubのグリルパンでゆるゆるあんじょうに焼きます。できあがりに、さんしょをぱらぱら。そんだけです。

Aduki_kayu1 まあ、ほんまに、なにゆうてない晩ご飯でっけど、なんや今年は始まる早々に波乱万丈の幕開けやったんで、いただいた後いつにもまして晴れ晴れとした気分になりました。京都人。単純なもんです。