煩悩戦隊イーベイヤー!

第三話 身代わり恵比寿

Lot No3 Evisuデニムブルゾン £16.00

003_evisu_denim_jacket_1600儂はものをよくなくす。置き忘れたり、しまい込んだ在処の記憶を失ったり、碓氷から霧積へゆくみちで谷底へ落としたり、原因は色々だが結果はひとつしかない。なくしたものは、なくなる。

いちばん失う率の高いものはといえば、これは圧倒的に帽子。なぜだか旅行まえには必ずなくす。ひどいときは空港で、気がつけば消えている。もちろん悔しい。けれど儂はそれを「Compensation」と呼んで、あまり深くは悲しまないようにしている。 償い、代償、賠償金といった意味の言葉だけれど、早い話が「身代わり」である。自分が事故に遭う、その身代わりとなってくれたのだと……。ま、ものは考えようということだ。

e-Bayを始めてすぐに探しはじめたもののひとつに『Evisu』のデニムブルゾンがあった。なぜって、ほんの数週間前にそれをなくしていたから。つまりCompensationのCompensationである。電車に置き忘れたとおぼしいのだけれど、まさか、なくしたものが帰ってくるとは期待していなかった。というか同じものがあるとすら思えなかった。持っていたのは日本製で、かなり古い型番のブルゾンだったから。拾って着てる人は、きっとプレミアがついてトンでもない値段になっているなんて予想もしてないだろーなー。

Evisuは、ここ十年くらいこちらでも人気が高く、発売された当初は奪いあいの状態だったが、イタリア生産が軌道に乗ってからは店頭も落ち着いてかなり浸透した。だから、このブルゾンを発見するのも早かった。むろんディティールは違っているけれど着方はほぼ同じと踏んでビットに参戦。けれど、さほどライバルはおらず簡単に落とせた。呆気ないくらい。値段もはっきりいって想像よりうんとこさ安く。

たぶん珍しいアイテムではなくなっているせい。そして、Evisuは品薄時代の影響でニセモノが大量に流通しているせいだろう。ネットショッピング最大のリスクは「ニセモノを掴まされる」こと。実物を見ていても騙されるのに、PC画面の小さな写真では、それこそ判断のしようがない。出品者が個人であること。出品者が、とりあえずホンモノだと保証してくれていること。でもって、むしろそれなりに順当な値段がついていること。などなどを頼りにビッダーは丁か半か賭けるしかない。Evisuに限らず人気のブランド服みんなにいえる事だけど。

さて、手元に届いたブルゾンは、とりあえずどこにもニセモノの証拠はなかった。タグの表記や縫製の具合、生地のクオリティ、どうみてもホンモノだろう。だがしかし、それがものすごーくよくできたニセモノである可能性は決して拭い去れない。どこか信じられない。儂が着ていないとき、エモンカケにぶらさがって舌を出しているような気がして仕方がない。で、結果はというと、ほとんど袖を通さなくなってしまったのだ。オリジナルは、あんだけ着たおしていたというのに。ブルゾンに罪はない。心理的な原因だ。だが、でも、しかし。

ニセモノをニセモノと知って着るのはかまわない。けれど、

ホンモノと信じてニセモノ着るのは許せないのだ。

以来儂はニセモノが作られるくらいメジャーなブランドはほとんど落とさなくなった。それでも、どーしても欲しくなったときは、このブルゾンを羽織ってビットすることにしている。本人は縁起を担いでいるつもりなのだ。名づけて「身代わりEvisu」。着て出かけることはなくなったけれど大切にしている。

第二話 カエル様がみてる

Lot No2 Milifiori Frog  £18.67

Milifiori_frog_glass_paperweight_18

儂はみるみる深みにはまっていった。とにかくあらゆるモノが揃った雑貨屋というかデパートというかヨロズ屋というかが、お隣にできたようなもんだ。そりゃあ、頻繁に覗いてしまいますよ。しかもパンツいっちょだろうが、〆切り明けでボロボロだろうが人目を気にする必要もない。ショッピングがなによりの息抜きという儂のような人間にとっては最高の場所。仕事で詰まるたびに(つまり、ほとんど一時間に一度は)ログインしてしまうようになった。明け方まで書いていて、そろそろ寝ないとヤバイというのに「眠る前にちょっとだけ……」とモノの海に耽溺してゆき、気がつけば朝明けの光のなかに立つ影は、イーベイマ~ン イーベイマ~ン

とくに深い海溝はCollectableというカテゴリー。アンテークでもなく新品でもなく、アートでもなく実用品でもなく、ままざまざままなものが、ざまざままざざなまま深海魚みたいに漂っている。こんなに魅力的な世界があろうか。検索欄に思いつくままキーワードを投入してクリックするだけで、何十何百のアイテムがズラリと目の前に並ぶ。ああああ。麻薬だわ。

その日、儂は「カエル」の検索結果を眺めてにまにましていた。動物モチーフとしては「海老」や「犬」「ウサギ」ほどは魅力的ではないけれど「熊」や「クラゲ」「蝸牛」並には好き。で、目についたのが写真のミルフォりであった。ミルフォリというのは色ガラスを仕込んだペーパーウェイト。実際に使うというよりは飾りものとして非常にポピュラー。儂がこいつを発見したときは、すでに三日前の段階で七、八人がビットを入れており人気を物語っていた。

ミルフォリは存外安価なのでコレクターが多い。英国にはカエル・コレクターもけっこういるから、二つ巴で混戦になりそうな気配がすでに漂っていた。と、いってもまだ£3くらいしかついていない。ということは10p、20pでの攻防戦らしい。

「……欲しい」。物欲に火がついた。よせばいいのに、初心者のあかさたな。その状況そのものに儂は俄然燃えてしまった。

日本のヤフオクは競りが激しいと終了タイムを伸ばしたりするけれど、eBayは設定時間厳守。〆切り当日、ガラスのカエルを巡って十分前くらいからビットが白熱しだした。と、いっても10p、20pの白熱だが。誰かが上乗せするたびに、儂はそれを上回る金額をちびちび加算していった。はっきりいって、これは大変宜しくないシチュエーション。食い下がってくるライバルに完全に冷静さを儂は失っていた。

そして、やってしまった。残り三分くらいの段階で、いいかげん〝業〟を煮やした儂は大きくビットしたのである。いま£5ちょいだから、£10も入れれば勝てるだろうと踏んだのだ。そして金額欄にキーも折れよと打ち込んだ。£10,00と。そう、

10.( ポイント )00 ではなく £10,( コンマ )00 と。

「,」は1000ごとの区切りに入れるもの。すなわち儂は一万ポンド、日本円に換算して250万円もの上限設定をしてしまったのだ。と、いうことは誰かが249万9999円分ビットしたら、その金額を払わねばならないということである。気がついた瞬間、血の気が引いていくのがわかった。……まあ、さすがにそこまでは行かなかったものの、最終的に金額は自分が「ぎりぎり出してもいいな」と考えていた値段を£8もオーバーしてしまった。

このミルフォリは、いまPCの上で儂を見ている。「カンカン(熱く)になりなさんなよ」と儂を戒めている。おかげで以降、ビットの金額を間違えて打ち込んだことはない。

しかしなによりショックだったのは一ヶ月くらいして、まったく同じものを誰かが出品してんのを発見したときかもしんない(脱力笑)。しかも£3くらいで落ちてやんの。そんなわけで以降£18はある種の〝壁〟となって、それ以上の金額をビットするのは、よほど欲しいものだけになりましたとさ。どっとはらい。ま、そういう意味では早い段階で勉強ができてよかったのかもね。 あははははははははは ( 田原俊彦の声で )

046_murano_art_glass_300_376 こいつは関係ないけど、儂が落としたほかのカエルもの。Lot No46 ムラノ製のヴェネチアン・ミニチュア蛙 x2。いちおう、なんとなくクリスタル。左が£3.00 右が£3.76ですた。こちらは納得の値段。かわいいやつです。ムラノのミニチュアはときどきヘンなものがあって楽しい。これが£18だったらまだ救われたのになあ……。

第一話 ここより永遠に

Lot No1 KENWOOD ELECTRIC FOOD MIXER 「CHEFETTE」 A375 £15.00

001b_kenwood_electric_food_mixer_pl 相方が七〇年代からずっと使い続けてきた電動ミキサー兼泡だて器。物保ちがいいにもほどがある。が、やはり寿命というものは何にでもあるもので、これがちょうど一年程前におシャカになった。それからというもの不便で仕方がない。新しいものを買おうと、いろんな店を回ったのだが、さすがに古い型だけあってどこにもない。ケンウッド本社にも問い合わせたが、生産していないとのこと(当たり前だ)。ならば最新式のハイテクなやつを買ってやろうじゃないの! と、意気込んではみたものの、これが、なかなか儂らの欲しいものがみつからない。

まず、無駄に大きい。場所を取る。無駄な機能が多すぎるのだ。コンピューターと同じ。新しい技術が開発されて、それが付加されるのはいいけれど、なんか自己満足じゃないの?それ?みたいな。本当にユーザーのためにバージョンアップしているのかどうか、かなり怪しい。あと、デザインも妙に安っぽい。機能がハイテクってゆくのはいいが外見もそれに合わせる必要ってあるのかねえ。台所で浮いちゃうじゃん。故郷の訛懐かし。元の田沼の濁り懐かし。

と、そんなある日、儂はふと思いついた。「そういや、この世にはe-Bayたらいう便利なものがあったべな。やっぱす早苗だべさ!と。

日本ではヤフオクが主流だが、こっちでは断然 e-Bay。さっそく会員登録。PayPalにも加入。ちょちょいと検索してみると、いままでどこを探してもなかった我らが愛用のミキサーも新品がズラリ! 本当なら値段の比較とか出品者の評価とか、いろいろチェックすべき項目はあったはずなのだ。けれど、なにしろ初心者のうえに舞い上がってしまっていたものだから、相方の「これって七〇年代に買ったときと同じ値段だ」という言葉に釣られ、なにも考えないまま一番上にある即売品をポチッと購入してしまった。

そして一週間後に無事商品は到着。当たり前だが、なんだか狐につままれたような気がしてしまう儂ら二人であった。なんて便利なんだろう。なんて面白いシステムなんだろう。とりあえず入会したんだからという言い訳を葵の御紋にして、儂はサイト内を探索。みるみる深みにはまってゆくこととなった。それが、底なしの煩悩地獄だとも知らずに……。