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Before I Forget (Avant que j'oublie)

今年のLLGFFは、そんなわけで小粒というか、まあ、愉しくひとときを過ごせる映画は揃っていたものの、こう、ガツンとくる作品が少なかった。とかいって鼻を鳴らしていたら最後にきました。ガツンというよりはどすっ……って感じのボディブローでしたけどね。あとでじわじわ効いてくるというか。

それはフランスの年老いたゲイたちの物語。彼らはそれなりに成功し、名を成し、幸せな時間を過ごし、安定した生活を送っている。たとえ若い恋人には逃げられても、セックスには困らない。ウリ子を買うだけの余裕はある。数は少なくとも訪ねあい、噂話に花を咲かせられる友達もいる。

主人公は、かつてそれなりに人気のあった作家(まず、ここで最初のどすっ。まあ、儂ゃ人気はないが)。長年連れ添った恋人がいるけれど、彼はさらに一世代上。しかもコンサバティヴな富豪であった。同棲するとかカムアウトとか考えもしないタイプ。人前では頬にくちづけて挨拶することすら嫌がる。フランスでは、ごく普通に初対面でもするような挨拶だというのに。それゆえか、もう二十年以上も付かず離れずの関係になっていた。

映画は淡々と主人公の暮らしを追ってゆく。煙草とコーヒーをかたときも手放せず(どすっ)、夜半に目覚めてペンを取ってもインスピレーションは訪れず(どすっ)、ことあるごとに己の肉体的な老いを思い知らされながら(どすっ)、それでもかつての活き活きとした自分が忘れられずに彼はゆっくりと死んでゆこうとしている……。その恐怖は、おそらくすべての欧州先進国に住むゲイたちがリアルに感じることのできるものだ。

そんなある日、主人公は恋人の訃報を受け取る。慌てて彼の家に駆けつけるけれど、財産家だった彼の家には親類や管財人であふれかえっており、その誰にも認知されていない主人公は死に顔をみることすら許されなかった。どんなに濃密な時間をかつて過ごしていたとしても、自分は主人公の友達ですらない人間なのだとあらためて気づかせられる。ただ埋葬も棲んで、あとは屋敷が整理されるだけとなったころ、こっそりと合鍵で侵入。主人公と恋人しか知らない〝へそくり〟を持ち出すのが精一杯だった。そしてその晩、主人公は墓地に忍び込み、彼だけの葬儀をあげる。

映画の最後、女装してハッテン映画館に出かける主人公。ずっと蓄えていた髭を剃り、口紅を塗って、娼婦のようないでたちで。それは主人公が、いま、真に欲しているものを正直に恥じないで手に入れようと決心をした姿であった。ゆっくりゆっくりと煙草をくゆらせ、老人は、映画館の暗闇に消えてゆく。

儂にしては、珍しく細かな筋立てを追って書いてしまったが、きっと理解できる人は、これだけの粗筋で理解してもらえるだろう。自分にとって本当に大切なものとはなんなのか、「過去に生きる」者はそれを忘れてしまう。だから、その前に追憶を捨てプライドを捨てて「現在の欲望」に人は立ち向かわねばならない。老人の心を思うとき、彼の胸の痛みはこの映画を観るすべての人たちに届くはずだ。ゲイであろうがなかろうが、真摯に自分の力で生きていこうとしている人であれば。

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