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No Country For Old Men

コーエン兄弟との付き合いは長い。かなり初期から彼らの作品は観ている。ハマったのは『バートン・フィンク』(91)。現実が妄想に侵食され、最後にはそこに囚われてしまう主人公。キューブリックの名作『シャイニング』(80)を思い出した。コーエン兄弟は、そのシュールな作風からリンチと比較されることが多い。けれど私はむしろキューブリックの後継者だと考えている。揃って裕福なユダヤ人の知的階層出身。幼い頃から8ミリをおもちゃに育ち、若くして才能を認められた経緯。しばしば観客を置いてけぼりにしてしまうツンデレ属性の作風。とことん役者を追い詰める演出法……。

けれど今回、彼らの新作『ノーカントリー』を観て、私は両者における最大の共通点を発見した。それは「映画を観る愉しみを再確認させてくれる」ということ。いや、いや、ほんっとーうに面白かった。こんな高揚はデル・トロ監督の『パンズ・ラビリンス』(07)以来だな。

発端はサム・ライミ監督の心理サスペンス『シンプル・プラン』(98)みたい。だが物語が進み、狂気の殺し屋アントンのキャラが次第に露わになってゆくにつれ、この作品そのものが彼同様にトンでもないバケモノなのだと観客は思い知る。もう一方の主人公ルウェリンとの息詰まるかけひきは、あたかも漫画版『デスノート』の月とLのごとし。手に汗握るエンターティメントに胸躍らせていると、ふいに氷の楔みたいな衝撃が心を貫く。これこそ映画的興奮ってやつだ。

この作品で唯一の不満はタイトルロール音楽。殺伐とした無音の荒野から始まる『ノーカントリー』は、そのまま音なく終わるべきであった。耳を塞ぎ、トミー・リー・ジョーンズ演じる保安官の台詞(題名の理由もここで解る)の余韻を味わうべし。

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