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The Savages

The Good, the Bad, the Ugly』のタマラ・ジェンキンス監督の新作。ばらばらに暮らすサベージ一家の息子と娘が、ボケの始まった父親をケアホームに入居させるために久々に再会する話。

彼らは、その父親から子供時代に受けた虐待がもとで、人間関係がうまく築けないようになっている。大学教授になり著作もあるアカデミズムの住人になった息子は長年暮らした恋人のポーランド人女性のビザが切れて帰国してしまうというのになにひとつ彼女を引きとどめる努力をせず、劇作家志望の娘は妻子ある男とのグズグズの関係を切れないままに不本意な仕事を続けている。また劇中で、実はこの父親もその父に虐待された過去があることがほのめかされる。そして、物語はやがて父の死で幕を閉じる。

粗筋だけだと、ほとんどの人が興味をもてそうにない暗い物語。まーたアメ公はすーぐにトラウマがドーの、喪失感がコーの、鬱陶しいったらありゃしない。少しは現実を、【今】を見て生きやがれ! と、しかしそれが、さらりと、かといって突き放したふうでもなく淡々とリアルに描かれることで「人生の悲劇」がときに思わず笑ってしまうような滑稽さを帯びるのだと観客は再確認させられる。同時に喜劇がどうしようもなく悲惨な情況で生まれてくるのだと思い知る。今を生きることって実はとっても難しいのだと改めて気づく。ちっとも今を生きていないかもしれない自分や、今を生きられる幸せも含めて ―― ああ、この映画を観てよかった……と、感じずにはいられない、これは名作だ

映画好きなら絶対に観なきゃダメ

息子の役をフィリップ・シーモア=ホフマン、娘をローラ・リニーという現代アメリカを代表する名優が演じており、そりゃあもう演技は折り紙つきで素晴らしい。とくに、この映画のような微妙な心理をお涙頂戴でなく、説得力を持って演じさせると、もはやアメリカでは右に出る者はない。それでいて、主役らしいチャーミングさや線の太さをも有しているのが彼らの真骨頂。イギリスにだって、なかなかこのキャラクターをここまで素敵に見せられる役者は少ない。Philip_seymour_hoffman_and_laura_li シーモア=ホフマンが首筋を痛めて、重しをぶらさげる矯正機を装着したところなんて、もう、可愛くて可愛くて。一家にひとり置いておきたいくらいチャーミング。ちょっと場所は取るかもしんないけど。フィギュアとかあったら絶対に買う。えい、くそ。写真を探したけど見つかんない。

まあ、この二人ならば、どんな映画だろうが面白くしてしまうのは間違いない。たとえばハムレットとガートルードとかでもやってしまえるだろう(さすがにロミジュリは無理にしても)。けれど、儂は、ただいま脂の乗り切った彼らが、この脚本に出会ったことに感謝しないではおれない。己の弱さや残酷さから目を背けないこと。死を受け入れること。過去を見失わないこと。今を生きるのは本当にツライことばかりだ。でも、だからこそ切なくて、ほんのりと新緑のような希望の香りが映画のラストには漂う。このすがすがしさは、みごとに酸いも甘いも苦いも含めた人間の人間らしさを演じきったシーモア=ホフマンとローラ・リニーの功績。彼らの仕事からしばらく目を離せそうにない。オスカーって、こういう演技に本来あげるべきものだよなあ。

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