夏バテて、儂、よう知りませんねわ。暑いしゆうて食欲がのうなるゆうことがありません。むしろ暑いときにこそ美味しいもんとか、暑いときに旬がくるもんとかのことを考えるとむしろ食欲が増すくらいです。だいたい智恵子の東京に空がないくらい英国には夏がおへんよって。そんなわけで、さほど冷やこい食べもんを体が欲さんのもホンマやけど、そやからゆうてさすがに夏場はあんまりコッテリしたもんは受けつけません。これは暑さのせいゆうより歳のせいやろかね。
そんな儂が夏のあいだ中、毎週みたいに繰り返すメニューがあります。これは、もう完璧やと自分では思うてます。
まずは、茄子の煮浸し。茄子は半割り。亀甲に飾り包丁を入れて胡麻油を敷いたフライパンに並べ、蓋をして極弱火で1時間くらいかけてじーわじーわ焼いていきます。この間にあと2品。胡瓜もみと白菜の炊いたん。胡瓜揉みは「鰻ざく」。そらほんまは「鱧きゅう」がよろしおっせ。そやけど鱧は英国ではどんならんもんのひとつですねん。
胡瓜はスライサー(こっちゃでは「マンダリン」て呼ばれてます)で薄切りにして塩をまぶして、ざるの中で自然に水けが抜けるのを待ちます。買ってきた鰻の蒲焼(真空パックのが日本食材店に売ってるんですわ)をあらかじめオーブンで炙りなおして冷ましといたんをザックザックと千切りにして、適度にしんなりした胡瓜を流水で洗い丁寧に塩抜きしたもんと合わせます。味付けは出汁醤油と米酢を半々に割ったもん。タッパに入れて冷蔵庫へポン。
次は〝たいたん〟。まず出汁醤油に花鰹を足して鍋で沸かし、お砂糖を大さじいっぱい加え、そこに千切りにしたお揚げさんを入れてひと煮立ちさせます。ここに巾2cmほどに切っておいた白菜を白い硬い部分から順に投入。蓋をして強火でぐらぐらくるまで炊きます。あとは火を弱めて白菜の量が半分ほどになるまでほっときます。ええ塩梅に炊けたら火を止めて生卵をポンポンと割りいれ、蓋をもどして、ハイ、できあがり。茄子の煮びたしが完成するころには温度卵っぽくなっています。ちなみに、これは室温で食べるのがええと思てます。
さあ、茄子が焼けました。ここでまたもや出汁醤油の出番です。強火に戻してフライパンをじょわーんといわせましょう。おしょゆうも大さじ三杯くらい足します。ピリカラにするときは、ここで種を抜いたタカノツメを潰し入れます。出汁が半分くらいまで煮詰まったら完成。火を止めてフライパンが冷めるまで放置プレイ。冷めたら、やっぱりタッパに移して冷蔵庫へ。―― と、ここまでを朝ごはんの後にやってまうんですわ。ここがポイントやと儂は思てます。ほしたら、あとは食べる前にごはんを炊いて、煮びたしに散らすネギか青紫蘇を刻むだけでしょ?
たいたんが汁っぽいさかい、とくにおつゆはいらんのやけど、どれも出汁醤油系の味なんで、目先を変えるためにこのメニューのときはお味噌汁をこしらえます。ほんまは茗荷がええんやけど、それは無理。第二候補は蓴菜! やけど、これも無理。なんで、湯葉かお豆腐に落ち着いてます。
そや、いっぺんこのラインナップにヴィシソワーズを組合わせたことがあったけど存外イケました。けっこう、あの冷たいジャガイモのスープはごはんに合いまっせ。おつけもんは胡瓜も茄子も白菜もかぶるさかい沢庵。濃ううに淹れた冷たい煎茶を用意して、はい、いただきまーす。
ところで、この晩ごはんのデザートはスイカとかマッカ(京都人はプリンスメロンのことをそない呼びます。「まくわ(瓜)」からきたもんでしょう)が定番なんでしょうけど、そうは問屋が卸しまへん。どんな問屋や知りまへんけど。そやかて、ほとんどお精進ですやん。このメニューて。と、そこでこさえますもんは「くずまんじゅう」ですねわ。こっちには白隠元の水煮缶が安うでようさん売ってまして、これを甘煮にして裏漉した餡を和三盆で甘くした葛でくるんだもんです。形は悪おすけど、けっこういけます。
そら、「松屋常盤」さんとまでは申しまへんけどな(笑)。